top of page

5つ星のうち5.0

自己認識が深まるので子どものケアに取り組む力量が高まる

投稿者:自己承認感タマゴ

2017年7月22日

 緯度と経度という「地球の座標軸」のおかげで、私たちは目的地と自分との位置関係を把握できる。その座標系を動くスマホで、目的地の詳細を知ることもできる。もし子どもたちの「精神発達の座標軸」があれば、眼前の子どもと私たち自身との関係性を可視化して認識できるのではないか。この座標系を動く親切なガイドブックがあれば、乳児期から思春期まで、子ども一人一人の体験を理解できるかもしれぬ。発達障害、不登校、いじめなど、子どもの言葉と行動の意味と必然性がわかって、親、保育士、教師、心理士、看護師、医師らは、子どもに落ち着いてかかわれるはずだ。
 児童精神科医学者である著者は五十年間の研究の末、子どもの「精神発達の座標軸」を発見した。その原理と実践をつないで体系化したのが本書だ。縦軸は「認識の発達」、横軸は「関係の発達」。この座標系を比例のグラフのように右上に向かって進むのが、子どもの精神発達の道筋だったのだ。そして「認識の発達と関係の発達は互いに支えあっている。」この本書の鍵概念は、全四六三頁中、十三回、出現する。
 縦軸「認識の発達」は、まわりの世界をより深く、より広く知っていくこと。ピアジェの発達論で、「理解の発達」「知的な発達」だ。横軸「関係の発達」は、まわりの世界とより深く、より広くかかわっていくこと。フロイトの発達論で、「社会性(共同性)の発達」だ。この座標系を駆使して、定型発達・知的障害・自閉症・アスペルガー症候群の全四領域の子どもたちと私たちは連続的に正規分布していることが明証される。
 精神医療の学説史も詳述する厚さ三cmの大著だ。読み方にはコツが要る。
 まず次の順に二節と三章を読んでみてください。自己認識が深まるので、子どものケアに取り組む力量が高まります。第9章3発達の分布図→二二頁「障害」という言葉→第7章 精神発達の道筋→第8章「共有」の発達としての精神発達→第4章「精神発達」をどうとらえるか
 あとは目次を眺めて関心をひかれる頁へ。小見出しと図解のみ先に読むと理解が楽になる。物語満載の青い小文字【例】だけ読む手もある。
 こべつ授業歴四十年の評者は本書が『子どもが読むための精神医学』でもあると感じた。小学生の千人に一人、中学生の百人に一人、高校生の五十人に一人は本書を耽読できよう。本書の学問の力に魅了されて将来、医療、保育、教育、福祉、編集の逸材が輩出するだろう。
(以上、金子書房『児童心理2017年8月号』に評者が寄稿した原文の微修正稿です。編集部の注文は「小学校の教師と小学生の子をもつ親に向けて、本と読者の橋渡しとなるように、千字で書け」でした)

bottom of page